あなたの給料が上がらない理由はモノプソニ―が問題だった!
働けど働けど一向に上がらない給料、それには理由がありました。
東京経済オンラインにて、その理由をmonopsony(モノプソニー)にあると考察されていました。
興味のある方は原文をご参照ください。
引用元:
『日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響』
デービッド・アトキンソン著
今回は、この記事を要約する形で、あなたの給料が上がらない理由について記したいと思います。
少し難しい話になるので、読み飛ばして頂いても構いません。
monopsony(モノプソニ―)とは
もともとmonopsonyという言葉は、「売り手独占」を意味するmonopolyの対義語で、「買い手独占」という意味で使われていました。
現在では、「労働市場において企業の交渉力が強く、労働者の交渉力が弱いため、企業が労働力を安く買い叩ける状態」を説明するために使われることが多くなっています。
過去記事でも述べたように、現在は労働者より雇用者の立場が強くなっています。
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このような状況はなぜ生まれ、どんな問題を引き起こすのでしょうか?
日本が抱える諸問題の根源にモノプソニーがある
企業の規模が小さくなる
本来であれば、高い給料を支払える生産性の高い企業に労働者が集中します。
「生産性の高さ」と「企業規模」との間には強い相関関係があるので、その国、その業種の企業の平均規模は大きくなります。
しかし、現在の日本ではモノプソニーの力が働いている為、企業は本来支払うべき給料より低い賃金で労働者を雇用しているので、利益を上げやすくなります。
この利益を狙って有象無象が小規模企業を乱立させるため、企業の平均規模が縮小します。
企業が増えるほど、経営者になる人間が増え、経営者の平均的な質は低下します。
企業の成長性は経営者の能力を反映しますので、企業の平均規模はさらに小さくなります。
すると、大企業と中堅企業で働く人の比率が低くなり、逆に小規模事業者で働く人の比率が高まります。
日本の小規模事業者の生産性は、大企業の41.5%しかないので、小規模事業者が増えるほど国全体の生産性が下がります。
輸出率が低下する
企業が継続的に輸出をするためには、高い生産性が求められます。
高い生産性を実現するには一定の規模が必要です。
しかし、モノプソニーの力が働き、企業の平均規模が小さくなると、輸出できる企業が減ってしまいます。
日本は輸出総額では世界第4位ですが、対GDP比では世界第160位と、著しく低いランキングに留まっています。
小規模事業者が増えるとグローバル化が進まず、国内でこじんまりと経営する企業が増えていきます。
最先端技術の普及が進まない
優秀な人材を安く雇用できると、機械化したり最先端技術を導入したりする動機が低下します。わざわざ最先端技術を導入しなくても、優秀な社員たちに任せておけばなんとかなる……と経営者は考えがちだからです。
また、企業の規模が小さいほど、最先端技術を導入するためのコストを払う余裕が少なくなります。
「現場でなんとかする」という昔ながらの足り方が横行してしまいます。
また研究開発や社員教育も、規模が小さい企業ほど実現できていない傾向が顕著に見られます。
貴方の会社では、教育にどれくらい費用をかけていますか?
格差が拡大する
モノプソニーの影響が強くなっても、高学歴の人など、労働市場での交渉力が強い層の所得にはほとんど影響がありません。
一方、交渉力の弱い層の賃金は低く抑えられるので、両者の格差は大きくなります。
今日の非正規労働者を見れば、明らかではないでしょうか。
サービス業の生産性が低くなる
モノプソニーの力が働きやすい業種と、働きにくい業種があることがわかっています。
特に、飲食、宿泊、小売、教育、医療においてモノプソニーの力が強く働くことが、世界的に確認されています。
これらの業種は他国の企業との競争はほとんどないうえ、労働集約型になりやすいという特徴があります。
残念ながら、これらの業種が日本全体の生産性の足を引っ張っていると考えられています。
女性活躍が進まない
モノプソニーの力がどれだけ強く働くかは、労使の交渉力の差によって決まります。
そのため、モノプソニーの影響は労働者全員に均一に現れるのではなく、特定の属性に偏ると考えられます。
モノプソニーの影響をもっとも顕著に受けるのは女性であることが確認されています。
特に子育て中の女性は、残業ができない、休みが多くなりやすいなどの理由から、雇用主に対する交渉力が大きく低下するので、モノプソニーの力がより強く働きます。
日本でモノプソニーの力が強まった理由
モノプソニーの最大の弊害は、財政の悪化と社会の衰退です。
日本では、モノプソニーの力が強まりやすいサービス業が中心の産業構造になったところに、セーフティーネットの整備もしないで、非正規雇用者を増やすよう規制緩和をしてしまいました。これが、モノプソニーの影響が増大した主因だと分析されています。
この政策が招いたのが、産業構造のさらなる歪みであり、国民の貧困であり、生産性が世界第28位に低迷するという結果なのです。
労働力を安く買い叩くと、結局「経営者」も苦しくなる
モノプソニーの問題は、単に労働者に支払われる給料が不当に安くなるということだけではありません。
モノプソニーの力が強く働くようなると、経営者が増え、小規模事業者が乱立します。
本来成り立たないはずの経営が、低賃金故に成立してしまう為です。
そうなると、国の産業構造に歪みが生じ、小規模事業者が増えると生産性が低下し、財政が弱体化します。(数が増えると経営者の質も下がる)
つまり、労働力を安く買い叩くことは、巡り巡って経営者自身の首を絞めることにもつながるのです。
このような状況に陥らないための方策として、「小規模事業者の統廃合」「中堅企業の育成」「最低賃金の引き上げ」が有効であると考えられています。
最後に
モノプソニーの力が働くと、企業は本来よりも過剰な利益を稼ぐことになります。しかし、企業に生じるメリットは、労働者が被るマイナス分よりも小さいとされています。結果として、個人消費の減少を招き、国の税収も低減してしまいます。
今日、日本に起こっていることをまさに反映しています。
デービッド・アトキンソン氏は、日本の中長期的な将来を考えれば、企業の統廃合を進め、ドイツのように中堅企業と大企業で働く労働人口の比率を高めることとしています。
また、モノプソニーの力を抑える産業構造を実現するためには、継続的な最低賃金引き上げが必要とも示しています。
大企業を増やすというのは、素直に賛成できませんが、現在のように小・零細が乱立する状況では賃金の上昇も見込めないので、統廃合はいずれにしても必要になると考えます。